eGFRのはなし(7)~日本人用eGFR計算式 について~
2026/02/01
■日本人用eGFR計算式とは?
そもそも、米国で開発されたeGFR計算式を「筋肉量が比較的少ない」日本人にそのまま当てはめると、腎機能が実際よりも高く見積もられてやすいという問題がありました。
(筋肉が少ない➡クレアチニン値が低く出やすい➡計算上、eGFRが高く出やすい)
そこで、日本人の体格に合わせた独自の「日本人用eGFR計算式(JPN-Cr式)」が作成され、現在日本では一般的に使用されています。(文献1)

■「日本人用」なのになぜ健診で低く出る?
しかし、実はこの「日本人用eGFR式」を使っていること自体が、健診で「eGFRが低めに出やすい(腎機能が悪く判定されやすい)」要因の一つとなっているのです。
その理由は、計算式が作られた過程における
(1)対象者(集団)の違い
(2)検査条件の違い
にあります。
■どんな集団から作られたのか?(対象者の違い)
日本人用eGFR式は、全国80施設の「入院CKD患者さん」を対象に、イヌリンクリアランス(実測GFR)を測定して作られました。
一方、健診を受ける方の多くは健常者(あるいは軽度の異常)が中心であり、対象集団が大きく異なります。
▪データの偏り
CKD患者中心のデータで式を作ると、低いGFRの領域での当てはまりは良くても、GFRが高い領域(健常者側)では推定が低めに出る可能性があります。
▪筋肉量の違い
健常者はCKD患者と比べて一般に筋肉量が多い傾向にあります。
筋肉量が多いと(腎機能とは無関係に)クレアチニンがやや高くなり、結果としてeGFRが低く計算されてしまいます。
実際に、腎移植ドナー候補(健常者)を対象とした研究では、日本人用eGFR式を用いると、実測GFR(イヌリンクリアランス)に比べて低めに推定(過小評価)されることが報告されています。(文献2、3)

(単位:ml/min /1.73m²)
このように、平均で15~20程度、計算値のほうが低く出ています。
■どのような条件で作られたのか?(検査条件の違い)
もう一つ重要なのが、「計算式が作られた時の条件」と「健診での条件」の違いです。
要点は、水分を「摂取」したか「制限」したか、という点です。
(1)計算式が作られた時の条件
「検査15分前に水500mlを摂取」した上で、採血(クレアチニンなど)やイヌリンクリアランス検査が行われました。
少なくとも脱水状態ではないと考えられます。
(2)健診での条件
一方、日本の健診の多くは、
▪血糖、コレステロール、中性脂肪などの空腹時採血が必要
▪腹部エコー、胃カメラ、胃バリウム検査など絶食が必要
といった事情から、食事制限とともに水分制限も同時に行われていることが一般的です。
(海外の健診では、食事制限はありますが、むしろ水分摂取は推奨されることが多いようです。)
このような健診の条件、特に昨今の夏のような酷暑の中、水分を摂らずに健診会場に向かえば、採血時には「脱水」状態になっていることは容易に推察されます。
(3)外来受診時の条件
対して、外来では、食事・水分制限はなく、普段の生活をしたうえで来院されます。
つまり、日本人用eGFR式が作られた時の条件により近いのが「外来受診時の条件」といえます。
■「健診でのeGFRの低下」=「慢性腎臓病(CKD)」とは限らない
このように、日本人用eGFR式は「水分摂取した状態」で測定したクレアチニンをもとに作られたものですが、健診では「脱水気味」で測定したクレアチニンを使用するというミスマッチが起きています。
その結果、本当は腎機能が悪くないのに「eGFR60未満(CKD疑い)」と判定されてしまうことがあるのです。
以下は、イメージ図です。

▪健診時(黄色):脱水気味で採血➡クレアチニン0.8、eGFR<60
▪外来受診時(緑色):食事・水分制限なく普段通りの状態で採血➡クレアチニン 0.7、eGFR≧60
この場合、計算式作成時の条件に近い「外来受診時」の数値を、その方の「真のeGFR」と判断するのが妥当であり、それだけではCKDには該当しないと考えられます。
次回は、実際に当院を受診された患者さんが「脱水」の影響を受けていたかどうかを検討します。
(補足)eGFR推算式の変遷
(1)MDRD(食事療法による慢性腎不全進行抑制試験)
eGFRを提唱した最初の研究。その対象が腎疾患患者中心だったため、eGFR≧60の領域で精度が落ちることが知られるようになりました。
(2)日本人用eGFR推算式
MDRD式をもとに日本人腎疾患患者を対象に作成されました。
(3)CKD-EPI 2009(慢性腎臓病疫学共同研究)
健常者を含む一般集団にも範囲を広げて作成されたのが、CKD-EPI式です。(文献4)
CKD-EPI 2009では人種差に関する係数が設定され、日本人では0.813という係数が国際的な研究や治験で用いられることがあります。
(4)CKD-EPI 2021
2021年には、この人種係数を用いないCKD-EPI 2021が報告され、海外ではこれが標準になってきています。(文献5)
【参考文献】
1.Matsuo S, et al. Am J Kidney Dis. 53:982-992, 2009.
2.Kakuta Y, et al. Clin Exp Nephrol. 14:63-67, 2010.
3.Tsuda A, et al. Kidney Blood Press Res. 41:40-47, 2016.
4.Levey AS, et al. Ann Intern Med. 150:604-612, 2009.
5.Inker LA, et al. N Engl J Med. 385:1737-1749, 2021.

