eGFRのはなし(22)~最終話・後編:代表的な腎疾患で何が起こるのか~
2026/05/31
前回は、CKDは一つの病気の名前ではなく、eGFR低下や尿異常の背景に原因となる腎疾患があるかどうかを考えることが大切だとお話ししました。
今回は最終話の後編として、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症を取り上げます。
それぞれの腎疾患で、実際に腎臓の中でどのような変化が起こっているのか、特徴となる変化を中心に整理します。
■糸球体腎炎
糸球体腎炎には、IgA腎症をはじめとして多くの腎炎があります。
その中には、症状がないまま気づかないうちに腎機能が低下し、腎不全に進行するものがあります。
糸球体腎炎では、血液をろ過する糸球体に炎症が起こります。
まず、炎症によって糸球体の毛細血管が傷つくと、そこから血液中の赤血球が出てきます。
いわば、糸球体の毛細血管から「血が出る」イメージです。
これが尿潜血として見つかります。
さらに炎症が広がると、蛋白も漏れ出し、尿蛋白として見つかるようになります。

したがって、尿潜血や尿蛋白は、糸球体腎炎を発見する重要な手がかりとなります。
ただし、健診で行われる尿蛋白や尿潜血の定性検査は、尿の濃さによって結果が変わることがあります。
そのため、1回の「1+」「2+」だけで病状を正確に判断することはできません。
そこで、腎臓内科では、尿蛋白や尿潜血が「糸球体腎炎を示す所見なのか」を、次のような点から確認します。

そのほか、必要に応じて尿細管障害の有無や腎エコーなども確認します。
さらに、尿所見が異常になった年齢や、扁桃炎などの既往も、診断を考えるうえで参考になります。
そのうえで、IgA腎症などの糸球体腎炎を診断するためには、腎生検が必要になります。
腎生検では、糸球体の中で起こっている炎症の程度や広がり(メサンギウム増殖や半月体形成など)、さらに血管・尿細管・間質にどの程度影響が及んでいるかを確認します。
その結果をもとに、病型を判断し、治療方針を決めていきます。
早期に正確な診断ができれば、適切な治療により、完治を目指せる糸球体腎炎もあります。
したがって、尿蛋白や尿潜血を指摘された場合には、eGFRの値だけで判断せず、腎臓内科の受診が勧められます。
■糖尿病性腎症
糖尿病を放っておくと、糖尿病性腎症という重い腎疾患につながることがあります。
典型的な糖尿病では、目安として、糖尿病発症後5年ほどで神経障害(しびれなど)、7~8年ほどで網膜症(視力低下など)、10~20年ほどで腎症が問題になると言われています。
糖尿病性腎症の経過を模式的に示すと、次のようになります。
(※実際の経過には個人差があります。)

ただ、糖尿病は気づかないうちに発症していることが多く、実際にはいつから糖尿病が続いていたのかがはっきりしない場合もあります。
典型的な糖尿病性腎症の場合、eGFRの低下よりも先に尿異常が現れます。
▪アルブミン尿・蛋白尿の出現
糖尿病性腎症では、糸球体腎炎と違って、毛細血管が炎症によって傷つくわけではないので、通常、尿潜血はみられません。
高血糖の状態が長く続くことで、糸球体の毛細血管の壁(基底膜)が厚くなり、「血液中の蛋白を通さない」という基底膜本来の機能が保てなくなります。
その結果、まず血液中のアルブミンという小さな蛋白が尿に漏れ出し、アルブミン尿として見つかります。
さらに進むと、アルブミンより大きな蛋白も糸球体の毛細血管の壁を通りやすくなり、通常の尿検査でも蛋白尿として見つかるようになります。

つまり、糖尿病性腎症では、尿潜血よりも、アルブミン尿や蛋白尿が重要な手がかりになります。
実際に、糖尿病の方では、蛋白尿が認められない段階から尿中アルブミンを測定し、早期診断につなげます。
▪腎機能の変化
糖尿病では、高血糖の影響で糸球体に流れ込む血流量や圧力が増え、初期に糸球体の「過剰ろ過」の状態になることがあります。
そのため、eGFRが高めに見えることがあり、eGFRが60以上だからと言って安心できるわけではありません。
蛋白尿が認められるようであれば、すでに腎症はある程度進んでいると考えられます。
その段階では、糸球体基底膜の肥厚だけでなく、糸球体や尿細管・間質にも糖尿病性腎症に特徴的な変化が起こっています。
さらに、eGFRが低下してくると、進行が速く、数年で腎不全になってしまうことも少なくありません。
▪健診で糖尿病を指摘されたとき
eGFRに関わらず、糖尿病の専門医のいる医療機関を受診し、しっかりと糖尿病の治療を受けることをお勧めします。
ただし、神経障害や網膜症がない、または軽度であるにもかかわらず、蛋白尿やeGFR低下がみられる場合には、糖尿病性腎症以外の腎疾患が原因である可能性があります。
その場合には、腎臓内科で腎生検も含めた検査を検討する必要があります。
■腎硬化症
高血圧を放っておくと、腎硬化症という重い腎疾患につながることがあります。
多くの臓器の血管は、酸素や栄養を届ける「栄養血管」としての役割を担っています。
一方、腎臓の糸球体毛細血管は、酸素や栄養を届けるだけでなく、血液をろ過して尿を作るという「機能血管」としての役割も担っています。
そのため、腎臓では高血圧による負担が、単なる血流低下による酸素や栄養の供給不足だけでなく、ろ過機能の低下、すなわちGFR低下として現れます。
▪腎硬化症の進行①-糸球体高血圧-
腎臓の糸球体には、尿を作るために、血液が高い圧力で送り込まれてきます。
通常は、腎臓に入る血管が収縮・拡張することで、糸球体にかかる圧力が高くなりすぎないように調節されています。
これを「自動調節能」といいます。
しかし、高血圧が続くと、この自動調節能が破綻し、糸球体に必要以上の圧力がかかるようになります。
これを「糸球体高血圧」といいます。
その結果、糸球体毛細血管が傷つき、蛋白尿が出てくることがあります。

▪腎硬化症の進行②-虚血と糸球体硬化-
さらに長い経過では、血流低下(虚血)のために、蛋白尿は少なくなり、むしろ、ろ過量が減少するため、GFRの低下が目立つようになります。
その結果、動脈硬化から腎臓内の細い血管が狭くなるとともに、糸球体自体が目詰まりしていく(硬化)ことになります。

ただし、このような2つの変化は、すべての糸球体で同時に起こるわけではありません。
そのため、蛋白尿の程度もeGFRの低下速度も、人それぞれであり、また時期によっても変わってきます。
▪健診で高血圧を指摘されたとき
高血圧は、腎臓だけでなく、さまざまな臓器(特に心臓や脳)に悪影響を及ぼします。
したがって、高血圧を指摘された場合は、早めに医療機関への受診が勧められます。
蛋白尿を認める場合、あるいはeGFRが60未満の場合は、腎臓内科への受診が勧められます。
■その他の腎疾患
ここでは代表的な腎疾患として、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症を取り上げました。
しかし、実際には、全身性疾患(膠原病や代謝性疾患)、尿細管疾患(薬剤性も含む)、遺伝性腎疾患(多発性嚢胞腎など)、電解質異常(高カルシウム血症)など、多くの疾患が鑑別診断の対象になります。
腎機能異常や尿異常をきっかけに全身の病気が判明することもあります。
■まとめ
同じ「腎臓病」でも、腎臓の中で起こっている変化は同じではありません。
糸球体腎炎では尿潜血や尿蛋白、糖尿病性腎症ではアルブミン尿や蛋白尿、腎硬化症では蛋白尿やGFR低下が重要な手がかりになります。
このように、eGFRの低下や尿異常の背景には、それぞれ異なる腎疾患が隠れている可能性があります。
健診でeGFR低下、尿蛋白、尿潜血、高血圧、糖尿病などを指摘された場合には、1つの数値だけで判断せず、全体の状況を合わせて考えることが大切です。
■最後に
「eGFRのはなし」では、eGFRの意味、年齢や筋肉量、脱水の影響、eGFR-CrとeGFR-Cysの違い、そして健診結果の受け止め方についてお話ししてきました。
ご自身の検査結果を正しく理解し、必要な受診や経過観察につなげるために、本シリーズが少しでも参考になれば幸いです。

