eGFRのはなし(9)~なぜ脱水でクレアチニンは上がるのか?~
2026/02/10
前回は、健診では脱水気味になりやすく、その影響でクレアチニンが高く出て、eGFRが低めに判定されやすいことを、当院のデータでお示ししました。
ここで疑問が出てきます。
「脱水になると、なぜクレアチニンが上がるのでしょうか?」
一般的には「血液が濃くなったから、その分だけクレアチニンの濃度も上がったんでしょう?」と思われがちです。
もちろんそれも理由の一つですが、実はそれだけではありません。
体内の水分が足りなくなると、腎臓の血流や尿細管の働き方に変化が生じます。
その結果、クレアチニンが尿に出にくくなってしまうのです。
今回は、脱水がクレアチニン値を押し上げてしまう「3つの理由」について、少し専門的な、でもとても大切な体の仕組みを解説します。
■理由1:血液そのものが「濃く」なる(血液濃縮)
これはイメージしやすいと思います。
塩水を作るとき、コップに入れる水の量を減らせば、中に溶けている塩分の濃度が上がるのと同じです。
水分が減った分、血液中のクレアチニン濃度が相対的に上がります。
■理由2:ゴミ捨て場への「入り口」が狭くなる(腎血流量/糸球体ろ過量の低下)
脱水では体を循環する血液量が減り、腎臓へ流れ込む血液も減ります。
その結果、腎臓の入り口の糸球体での“ろ過量”が減り、血液中にクレアチニンが残りやすくなります。
■理由3:追加の「ゴミ出し」が少なくなる(尿細管分泌の減少)(※ここが重要)
実はここが、数値に最も大きな影響を与えるポイントです。
以前のブログ(eGFRのはなし(4))でも紹介しましたが、クレアチニンは、糸球体でろ過されるだけでなく、追加で尿細管からも分泌されて排泄されます(尿細管分泌:左図の青い矢印)。

しかし、脱水になると、体の中では次のような変化が起こり、クレアチニン排泄が少なくなります(右図)。
▪腎臓の中の血液の流れが変わる
脱水になると、体は血圧を保つためにホルモン(レニン-アンジオテンシン-アルドステロンなど)を働かせ、腎臓の血流の配分を変えます。
具体的には、糸球体から出ていく血管(輸出細動脈)を収縮させます。
その結果、その先にある尿細管細胞へ流れる血液が減り(血流を示すピンクの矢印が細くなる)、クレアチニンが尿細管に運ばれにくくなります。(濃い青の血管の中の赤い球=クレアチニンが減ります)
▪運び屋(輸送体)が動けなくなる
通常、クレアチニンは尿細管細胞内の「運び屋(輸送体)」によって尿細管(黄色い管)の中に運び出されます(左図の青い矢印)。
しかし、脱水になると運び屋が働けなくなります(右図の細い白の矢印)。
そのために、クレアチニンは尿細管(黄色い管)までたどり着きにくくなります。
「川の水が少なくなり、ゴミを運ぶ”船(運び屋)“が動かなくなってしまう」イメージです。
こうして、本来なら尿細管から“追加で”捨てられるはずであったクレアチニンが血液中に残りやすくなるため、血中クレアチニン濃度が上昇します。
■脱水では一時的にクレアチニンが上がり、eGFRが低くなることがある
脱水時のeGFR低下は、腎臓そのものが悪いわけではなく、「水分不足によって、ゴミ出しのシステムが一時的に効率を落としているだけ」という場合が少なくありません。
健診当日に「絶飲食」だったり「たくさん汗をかいた」状態で検査を受けると、この現象が起きやすく、本当の腎機能よりも悪い結果が出てしまうことがあります。
これが、前回のデータでお示しした、「外来で水分を十分に摂って再検査をすると、4割以上の方がeGFR60以上に戻る」という現象の正体です。
■健診を受けるときの注意
では、どうすればいいのでしょうか?
なるべく脱水状態にならないように注意することが大事です。
特に、夏の暑い時期は要注意です。
【具体的な対策】
1.普段から水分をよく摂るように心がけること
2.尿の色を確認する。濃い尿が出る場合は、水分が足りないサインなので、しっかりと水分補給をすること
3.健診前日は、意識して十分な水分補給をすること
4.健診当日の朝も、検査の指示の範囲内で十分な水分補給をすること
5.もし健診でeGFR60未満を指摘された場合は、普段通りの食事、十分な水分摂取をして再検査を行うこと
※持病のため水分制限を指示されている方は主治医の指示に従ってください。
■次回は?
水分を十分に摂っても、なおeGFRが低い数値になることも少なくありません。
次回は、もう一つの大きな要因である「筋肉量」がeGFRにどう影響するのかをお話しします。
(補足)尿細管分泌の減少によってクレアチニンが上がる根拠
■脱水(水制限)でクレアチニンの尿中排泄が減る報告
1.Sjöström PA, et al. Extensive tubular secretion and reabsorption of creatinine in humans. Scand J Urol Nephrol. 22:129-31, 1988.
■尿細管の運び屋である輸送体(トランスポーター)を薬で抑えるとクレアチニンの尿中排泄が減る報告
2.Delanaye P, et al. Trimethoprim, creatinine and creatinine-based equations. Nephron Clin Pract. 119:c187-93, 2011 (Review).
3.Lepist EI, et al. Contribution of the organic anion transporter OAT2 to the renal active tubular secretion of creatinine and mechanism for serum creatinine elevations caused by cobicistat. Kidney Int. 86:350-357, 2014.


