eGFRのはなし(10)~筋肉量がeGFRにどう影響するのか?~
2026/02/18
水分を十分に摂っていても、eGFRが低い数値のまま。
そんな時、考えられる原因のひとつが、「筋肉量の多さ」です。
eGFRの計算は、「年齢・性別・クレアチニン」の値の3つだけで行われます。
そのため、体格や筋肉量の違いは直接には反映されません。
(※性別や年齢は一部の目安にはなりますが、個人差までは補えません。)
■筋肉量とクレアチニン
クレアチニンは筋肉から作られる老廃物なので、一般に筋肉量が多い方は高め、筋肉が少ない方は低めになりやすい傾向があります。
その結果、筋肉量が多い方では、腎機能が同じでもeGFRが低め(過小評価)に出ることがあります。
どういうことか、クレアチニンを「筋肉から出るゴミ」として、次のように例えてみます。
▪工場(筋肉):ゴミを出す場所
▪ゴミ箱(血液):ゴミを一時的に溜める場所
▪トラック(腎臓):ゴミを外へ運び出す役割
【標準的な工場の場合】
工場から出た適量のゴミを、トラックが順調に運び出します。
ゴミ箱は一つで十分に足りています。
この場合、クレアチニン値は標準的な範囲に収まり、eGFRも腎機能の状態を比較的よく反映します。
【大きな工場(筋肉質)の場合】
工場が大きいと、必然的に出るゴミの量が増えます。
トラックが正常に動いていても、ゴミが残りやすく、ゴミ箱が一つでは足りなくなります。
その結果、クレアチニン値は高くなり、eGFRは実際の腎機能よりも低く計算されてしまいます。
つまり、トラックの性能(腎臓の機能)は悪くないのに、ゴミの量が多いせいで「トラック(腎臓)が悪い」と勘違いされてしまうのです。
■どのくらいの差が出るのか?
では、体格・筋肉量の違いにより、クレアチニン値はどのくらい変わるのでしょうか。

次に、腎機能が同じと仮定して、50歳男性で比べてみます。

この表を見ると、筋肉量が多い方では、腎臓そのものに異常はなくてもeGFRが「60」を切ってしまい、腎機能低下と判定されることがわかります。
つまり、「eGFRが低い=すぐに腎臓病」と決めつけるのではなく、「脱水になっていなかったか」とともに「ご自身の体格(筋肉量)」を振り返ってみる必要があるのです。
■筋肉量の変化
「昔、運動部で頑張っていたけど、今はもう運動していないから筋肉なんて多くない」
という方もいると思います。
実はそんなことはなく、若い時に作られた筋肉は、ある程度“貯金”として残っているのです。
以下に、年齢ごとの筋肉量の変化を示します。

(文献1より作成)
※これは平均値であり、実際には体格(身長・骨格)や運動習慣などにより大きな個人差があります。
グラフを見ると、男女とも20代から40代がピークであり、それ以降は徐々に減少していきます。
ただ、この「ピーク(最大筋肉量)」には大きな個人差があり、次のような方では高くなりやすいと考えられます。
▪運動歴がある人:学生時代に部活動などでしっかり鍛えていた人は、ピークが高くなりやすい。
▪体格が大きい人:運動習慣がそれほどなくても、高身長などで「工場規模」が大きいため、ピークが高くなりやすい。
すなわち、もともとの筋肉の「貯金」が人よりたくさんあるということです。
そのため、加齢とともに筋肉が減少していったとしても、同年代の平均に比べれば筋肉量は依然として「多め」に維持されます。
これには “マッスルメモリー(筋肉の記憶)”という仕組みも関係しています(詳細は補足参照)。
結果として、産生されるゴミ(クレアチニン)も平均よりも多くなり、平均的なクレアチニン値をもとに作られた「eGFR計算式」では、数値が実態より低めに算出されてしまうのです。
■まとめ
昔の運動経験やもともとの体格によって『筋肉の貯金』がある方は、その分だけゴミ(クレアチニン)も多くなり、eGFRが低めに出ることがあります。
このように、クレアチニン値から計算するeGFRは、「水分(脱水)」だけでなく、「筋肉量」にも大きく影響されるのです。
この2つの影響を受けにくい、もう一つの腎機能の指標が「シスタチンC」です。
次回は、シスタチンCとはどんな指標なのか、クレアチニンとの違いを解説します。
【補足】マッスルメモリー(筋肉の記憶)とは?
「昔は鍛えていたけれど、今はもう筋肉なんてない」
という人でも、実は体の中に「貯金」が残っている場合があります。
この考え方のひとつが「マッスルメモリー(筋肉の記憶)」です。
筋肉の細胞には、筋肉を作るための“司令塔”である「核(筋核)」があります。
トレーニングをすると、筋肉が太くなるだけでなく、この「筋核」の数も増えます。
たとえ運動をやめて筋肉が細くなってしまっても、増えた「筋核」は長期間残る可能性が示されています(文献2、3)。
その結果、昔の運動経験がある人には「筋核」が多く残るため、今は運動してなくても筋肉が比較的保たれやすく、さらに運動を再開したときも筋肉が戻りやすい、と考えられています。
【文献】
1.谷本芳美ら. 日本人筋肉量の加齢による特徴.日本老年医学会雑誌 47:52-57, 2010.
2.Bruusgaard JC, Gundersen K, et al. Overload leads to a lasting increase in number of myonuclei and rapid regrowth. Proc Natl Acad Sci USA . 107:15111 – 15116, 2010.
(過負荷は筋核の数の持続的な増加と急速な再成長をもたらすという報告)
3.Seaborne RA, et al. Human Skeletal Muscle Possesses an Epigenetic Memory of Hypertrophy. Scientific Reports. 8:1898, 2018.
(ヒト骨格筋は筋肥大の記憶を有しているという報告)



