多発性嚢胞腎のはなし(2)~なぜ大人で発見されるの?~
2022/05/12
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は遺伝性の疾患なのに、なぜ大人になってから発見されるのでしょうか。
これには、“優性遺伝”という遺伝型式が関わっています。
遺伝子は染色体というものに詰め込まれて存在します。
染色体には、「常染色体」と「性染色体」があります。
そのうち常染色体にある遺伝子は両親から1つずつ受け継ぎます。
両親のどちらかがADPKDの場合、変異を持つPKD遺伝子(オレンジ)と正常のPKD遺伝子(ブルー)を1つずつ持っています(図のお父さん)。
変異のあるPKD遺伝子を受け継いだ場合、ADPKDになります(図の患者さん)。
ここで大事なのが、ADPKDでない親(図のお母さん)から正常なPKD遺伝子(グリーン)を受け継いでいるということです。
変異PKD遺伝子を受け継いでいても、正常なPKD遺伝子が働いている限り、尿細管の太さは正常に調節されます。
では、なぜ嚢胞ができてくるのでしょうか。
お母さんのお腹の中にいるときに腎臓は作られ、PKD遺伝子も働いています。
ADPKDでは全ての尿細管の細胞で「1つしかない正常なPKD遺伝子(グリーン)」が頑張っているのですが、ほんの一握りの細胞でその遺伝子に突然変異が起きることがあります。
これを「体細胞変異*1」といいます。
体細胞変異が起きた細胞では、正常なPKD遺伝子が働かなくなる、すなわち尿細管の太さを調節できなくなり、次第に嚢胞ができてきます。
この体細胞変異が起こる時期や頻度は、人によってさまざまです。
そのため同じ家系であっても嚢胞の大きさやその数も異なるため、誰一人として同じ経過を歩む患者さんはいません。
なので、一人一人しっかりと病状を見極めていく必要があります。
【まとめ 1】
ADPKDでは、受け継いだ変異遺伝子に加えて、正常な遺伝子にも体細胞変異が起こることにより、嚢胞が形成されます。
このように嚢胞は小さいころからでき始めています。
ただ嚢胞ができたとしても、最初は顕微鏡でしかわからないような微小な嚢胞です。
それが何年もかけて徐々に大きくなっていきます。
嚢胞の周りには腎臓の正常組織があるため、風船を膨らませるように急激に大きくなることはありません。
嚢胞の径が1mm以上になってはじめてMRI検査で検出できるようになります。
このような嚢胞が年齢を重ねるにつれて、その数も大きさも増えていくので、徐々に腎臓全体が大きくなっていきます。
そのために、多くの方が大人になってから発見されるのです。
【まとめ 2】
ADPKDでは、嚢胞が大きくなるまで相当の年月がかかるため、症状は出にくく、多くの患者さんが大人になって発見されます。
*1 体細胞変異とは、受精卵になってからの細胞で起こる遺伝子変異のことです。人間のどの細胞でも起こる現象で、腎臓では特にその頻度が高いとされています。親から受け継いだ遺伝子変異を生殖細胞変異といいますが、それが1つ目のヒット、体細胞変異を2つ目のヒットと考え、このメカニズムは「ツーヒット説」といわれます。がんの発生を抑制する遺伝子で使われた用語です。