PKD腎臓内科クリニック

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院長ブログ

トルバプタンのはなし(1) ~どんなくすり?~

2022/05/30

約30年前、私が多発性嚢胞腎(ADPKD)の研究を始めたころには、これまでお話ししたような「なぜ嚢胞ができるのか」さえわかっていませんでした。

しかし原因遺伝子が見つかってから、その後の研究が進み、今までわからなかった病気の仕組みが少しずつ明らかになってきました。

そして2014年に嚢胞の成長を遅くする治療薬(トルバプタン)が患者さんのもとに届きました。

 

どんなお薬かというと、

水分のはなし”で紹介した、尿を出さないようにするホルモン(抗利尿ホルモン)であるバソプレシンが働けなくようにするお薬です。

バソプレシン受容体拮抗薬、トルバプタン(商品名:サムスカ®)といいます。

嚢胞を成長させるバソプレシンの作用を抑えて、腎臓の働きが悪くならないようにします。

 

ただ、ADPKD患者さん全ての方が飲める薬ではなく、腎臓の大きさなどの条件*1があります。

その条件を満たした場合、主治医の先生から「お薬を出します」ではなくて、「お薬を飲んでみませんか」と言われます。

このお薬は、飲めばいいという薬ではなく、患者さんご自身がしっかりと自己管理をしながら飲まなければならない薬だからです。

 

どういうことか説明します。

この薬を飲むと、尿を出さないようにするバソプレシンが働かないので、たくさんの尿が出ます。
最初は1日5リットル以上になり、それに見合う水分を摂ることになります。

「そんなに飲めるの?」と思う方もいるでしょう。

最初は、私も患者さんが本当に飲めるのか心配していました。
でも、患者さんの方が一枚上手で、多くの方がしっかり水分を摂れています。

暑い日にスポーツなどで汗がたくさん出た時、喉が渇いて、500mLのペットボトルを一気に飲み干した経験はないでしょうか。
人間は喉が渇くと、脳の中の “口渇中枢” が働いて自然に飲んでしまうものです。

お薬を飲んで尿がたくさん出てしまった場合も同じです。
自然と喉が渇くので、水分を摂ることができるようです。

 

ただ、最初はうまくいかない方もいらっしゃいます。

私の患者さんのはなしです。
薬を開始して数日後に外来に来られました。
お話を聞くと「仕事にならない、もう薬を止めたい」とのことでした。

私は、それだけ尿が出ているということは逆に効きがいいのではないかと思いました。
それを止めてしまうのは、あまりにももったいないです。
そこで「無理な場合は休薬してもいいので、4分の1の量で続けてみる」ことを提案しました。
何とか了承していただき、薬を継続することになりました。

数週間後の外来の時には「何とか飲めている」とのことで、
今度は「週末お休みの時に少し増やしてみる」という提案をしました。
その後もご自身のペースで少しずつ増量し、1年後には最高量まで飲めるようになりました。
もう数年経ちますが、しっかりと続けられています。

この患者さんのように、慣れるまでに時間がかかる方もいらっしゃいます。
また飲み方(時間や服用量)を工夫することもあります。

 

「食わず嫌い」という言葉があります。
でも食べてみると、意外とおいしいということもありますよね。

主治医の先生から「飲んでみませんか」と言われたとき、「飲まず嫌い」せずに前向きに考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

*1 両側の腎臓の大きさの合計が750mL(正常の約3倍)以上で、年間の増大率が5%以上(1000mLであれば50mL以上増加)していること、さらに腎機能eGFRが15(mL/分)以上であることが条件です。

 

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