健康診断のはなし(2)~尿潜血陽性といわれたら~
2022/08/12
二つ目は、全く症状もなく尿潜血が陽性だった場合( ”無症候性血尿” といいます)のお話をします。
尿蛋白のところでお話ししたように、濃い尿の場合に陽性になることはありますので、普段の状態での再検査が必要です。
女性は生理と重ならないときに検査しましょう。
再検査では、最初に、本当に血尿が出ているのかどうかを調べます。
そのための検査が “尿沈渣” というもので、尿の成分を顕微鏡で観察します。
尿に血が混じっているのであれば、その中に赤血球が出ているはずです。
蛋白と同じように、正常でもわずかに赤血球が出ることもありますので、やはりその程度が重要です。
尿沈渣で赤血球が「5個/1視野」以上であれば、血尿と判断されます。
尿に血液が混じるということは、腎臓、尿管、膀胱、尿道のどこかで出血をしているということです。
血尿の原因となる尿路結石や膀胱炎、腎尿路腫瘍(腎がん、膀胱がんなど)は症状が出ることが多いので、無症状で画像検査でも異常がない場合は、腎臓の糸球体から血尿が出ている可能性が高いと考えられます。
その原因として頻度が高いのが、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎です。
顕微鏡的血尿に加えて尿蛋白陽性の場合は、より強く疑われます。
では、糸球体腎炎でなぜ血尿が出るのでしょう。
ここで、“ざる“、“トマトちゃん”、“米粒くん”に再登場してもらいます。(健康診断のはなし(1)参照)
糸球体の “ざる“ は毛細血管でできています。
その毛細血管が切れないと、“ざる“ から 赤血球の“トマトちゃん” は出てきません。
擦り傷などで血が出てくるときに、皮膚では、そこにある毛細血管が切れているのです。
糸球体腎炎では、この“ざる“に炎症(火事)が起きることによって、大きな穴が開いて “トマトちゃん”が出てくると考えてください。
最初は、火事が起きているところが少なく、血尿だけ認められます。
ただ、火事が長く続くと、“ざる“ の網の目も壊れてきてしまって、“米粒くん” すなわち尿蛋白も出てくるようになります。
このように、糸球体腎炎の場合は、最初は症状もなく血尿だけが認められます。
この血尿がどのくらいの程度で、どれだけ長く続くかを見極めたうえで、腎生検など、必要な検査を行っていきます。
(ホームページの“慢性糸球体腎炎”を参照)
IgA腎症の場合、この段階で、適切な診断をして治療が行われれば、治癒させることも可能です。
蛋白尿が出てきてしまっても、早ければ早いほど、腎機能障害という後遺症をできるだけ少なくすることもできます。
とにかく、火事を早く消して、腎臓くんを守ってあげることが大切です。
最後に、目で見てわかる血尿( ”肉眼的血尿” といいます)について話をしておきます。
糸球体腎炎でも肉眼的血尿が出ることはありますが、多くの場合、その前に風邪症状(発熱、喉の痛み、扁桃腺が腫れるなど)があります。
火種が一気に増えて火事がたくさんの糸球体に起こるためです。
そのような症状がなく、肉眼的血尿が出た場合や背中の痛みなどを伴う場合、特に40歳以上の男性では、尿路結石や腎・尿路の腫瘍(腎がん、膀胱がんなど)の可能性があり、まずは泌尿器科で検査をしてもらってください。
無症候性の“尿潜血”は、腎臓くんが送ってくれている重要なサインの可能性があります。
見逃さないようにしてください。