健康診断のはなし(3)~血清クレアチニンが高い、eGFRが低いといわれたら~
2022/08/22
三つ目は、血液検査でクレアチニン値が高い、推定糸球体濾過値(eGFR)が低いと言われた場合についてのおはなしです。
男性、女性のクレアチニン値の正常値は異なります。(理由はのちほど説明します)
一方、eGFRは性別も考慮されて計算されます。(ホームページの“腎臓くんのお仕事”を参照ください)
このeGFRが60未満だと慢性腎臓病(CKD)のステージ3以上に相当する可能性があるので、健診ではD判定(要医療)となり、医療機関への受診を促されます。
ここで大事なことは、「本当に腎臓病があるのか」ということです。
まず、健康診断では「脱水」傾向で検査をすることが多く(健康診断のはなし(1)~尿蛋白陽性といわれたら~を参照ください)、血液も濃縮され、クレアチニン値が高くなることがあります。
もう一つ、クレアチニン値に影響するのが「筋肉量」です。
そもそも “クレアチニン” は、筋肉で働く “クレアチン” が分解されてできる老廃物です。
“クレアチニン”は、そのほとんどが腎臓の糸球体から濾過されること、測定しやすいことから、腎臓の排泄機能の指標として昔から使われてきました。
ただ、男女差が大きいため、男性と女性では正常値に違いがあります。
また、年齢によっても差があります。
極端な話になりますが、「ボディビルダー」と「小柄なおばあちゃん」では、クレアチニン値は大きく違ってきます。
そこで、eGFRという概念が生まれ、年齢、性別、クレアチニン値から計算されるようになりました。
ただ、同じ性別、年齢でも、筋肉量に違いがあります。
「筋肉量」が多い人ほど、クレアチニン値が高くなり、eGFRが低く計算されます。
また、同時に測定されることの多い “尿素窒素(BUN)” も高いことがあります。
その要因に「脱水」と「蛋白摂取過剰」があります。
筋肉を鍛えるのにプロテインを多く摂取していると顕著にBUNが上がる(BUN 20以上)こともあり、それも健康診断では異常とみなされます。
このように、腎臓病でなくても、血清クレアチニンやeGFR、尿素窒素(BUN)が異常値を示すこともあります。
本当に腎臓病がないのかどうかは、きちんとした検査をしてみないとわかりません。
再検査では、普段の生活をした状態で受診しましょう。
クレアチニン、eGFR、尿素窒素(BUN)などの検査とともに、詳しい尿検査(尿蛋白・クレアチニン比、尿沈渣で尿中赤血球)をします。
また尿中の成分(尿浸透圧、尿中ナトリウム、尿中尿素窒素など)を測定してみると、脱水やBUN上昇の原因がある程度推定できます。(*1)
さらに、クレアチニン値の異常が「筋肉量」によることが疑われる場合には、“シスタチンC” 値も参考になります。(*2)
腎臓病は症状が出ないことがほとんどです。
尿検査で異常がなくても、腎機能低下だけが唯一のサインである腎臓病もあります。(*3)
くれぐれも放置せずに、再検査してください。
もう一つ大事なことがあります。
健康診断を毎年行っている方が多いと思います。
eGFRはその経過もとても参考になります。
再検査するときには、これまでの健康診断の結果を持参しましょう。
*1 尿の成分からわかる「BUN上昇」の原因
BUNが上がる原因として、脱水とプロテイン摂取を取り上げました。
「脱水」では、尿浸透圧が高く、尿中ナトリウム・尿素窒素の排泄率が少なくなります。
それに対して、過剰な「プロテイン摂取」では、尿素窒素の排泄率が多くなります。
*2 シスタチンC
シスタチンCは糸球体で濾過される蛋白質で、筋肉量などに影響されないので、正確な腎機能を評価するのに参考になります。
ただ保険診療では3カ月に1回しか測定できないこと、やや高価な検査であること、影響を及ぼす因子(甲状腺機能や薬物など)があることから、本当に必要な患者さんのみに行われます。
*3 尿異常を伴わない慢性腎臓病
尿蛋白や尿潜血は糸球体の疾患では異常を示しますが、尿細管や間質の疾患では尿異常を示すことは少なく、腎臓の機能だけが低下していきます。
尿細管間質性腎炎、多発性嚢胞腎を含む遺伝性の尿細管疾患などです。
また、高齢者に多いですが、腎臓の動脈硬化が原因の腎硬化症も尿蛋白を伴わないことがあります。