PKD腎臓内科クリニック

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院長ブログ

多発性嚢胞腎・研究のはなし(1) ~バソプレシンと嚢胞腎~

2022/10/30

世界で行われている嚢胞腎に関する研究について、これから少しずつ紹介していきたいと思います。

 

最初は、バソプレシンに関する話です。

バソプレシンは嚢胞を成長させます。
ただ、それだけではありません。
トルバプタンのはなし(4)“でお話したように、バソプレシンは糸球体の仕事も増やします(過剰濾過)。

さらに、バソプレシンには、嚢胞腎の腎機能低下を後押しする作用があることがわかってきました。

 

2020年のアメリカ腎臓学会誌に報告された、
「バソプレシンは嚢胞の周りの支持組織(間質とよばれます)の線維化を進める」というものです。(*1)

 

腎臓の中身を顕微鏡レベルで覗いてみると、下の図のようになっています。

 

糸球体の周りに尿細管がぎっしりと詰まっています。

その隙間に支持組織である間質がありますが、図のように、嚢胞ができ始めた時には目立ちません。

 

しかし、嚢胞が大きくなってくると、この嚢胞のまわりの正常な尿細管は徐々に消失し、目立たなかった間質に線維化が進んできます。

 

このように正常で働く腎臓の組織がなくなり、線維化が進むことにより、腎機能は低下していきます。

 

この線維化に大きく関わっているのが、実はバソプレシンでした。

「バソプレシンが刺激となり、嚢胞ができる細胞の中に ”YAP (yes関連蛋白)” とか ”CCN2(結合組織成長因子)” とかいう物質が増えて、嚢胞腎が成長し、線維化を進める」という研究成果が得られたのです。(詳細は注釈で解説します*1)

バソプレシンは嚢胞を大きく成長させることによって、腎機能を低下させていくと考えられています。なので、腎臓の大きさ(腎容積)が注目されます。

しかし、この研究結果から、バソプレシンによる腎臓の線維化も嚢胞腎の進行において、とても大事な要素であることがわかりました。
腎臓の大きさだけではなく、腎機能を低下させる様々な要因についても目を向ける必要があるのです。

ADPKDの患者さんの中には、腎臓がそれほど大きくならずに腎機能が低下してしまう患者さんがいます。
このような患者さんでは、線維化が早く進んでしまったことによって嚢胞が十分に大きくなれなかったとも考えられます。

 

 

もう一つ、バソプレシンが嚢胞の増大に大きく関わっていることを示す報告があります。

2019年に評価の高い国際誌(Nature Communications)に報告された
滋賀大学の依馬先生らのサルの嚢胞腎モデルを使った研究です。(*2)

 

腎臓の尿細管は、いろいろな役割をもつ細胞が連なって構成されています。
尿細管は、部位によって、塩分や水分、さまざまな物質を吸収したり、分泌したりしています。

 

 

嚢胞はこの尿細管のいろいろな部分からできてきます。
ただ、その中で大きくなる嚢胞の大部分が、尿細管の中でも水分を吸収する ”アクアポリン2(AQP2)”という物質を持つ細胞(主に集合管に存在)からできてくることがこの研究でわかりました。

実は、このAQP2は、バソプレシンが働くことによって出てくるものなのです。

この結果から考えてみると、嚢胞ができたとしても「バソプレシンを働かないようにすれば、嚢胞はあまり大きくならない」と言えるかもしれません。

 

 

この2つの研究は、嚢胞腎にとってバソプレシンがいかに悪影響を及ぼすかを示したものです。

バソプレシンは、からだの水分調節には欠かせないものですが、嚢胞腎にとっては働いてほしくないものです。

腎臓の大きさや増大率においてトルバプタンの適応にならない患者さんでも、バソプレシンが出ないように水分をしっかり摂ることは、嚢胞腎の進行を抑えるためにとても大切なことなのです。

 

 

このような研究は、私たちに有益な情報を与えてくれます。
難しいところもあるかもしれませんが、「へ~」「ふ~ん」という感想でいいので、医学の進歩を身近に感じていただければと思います。

 

 

(注釈)

*1 線維化のメカニズム

著者らは遺伝子操作をして作った嚢胞腎のモデル動物を使って研究しました。

最初にモデル動物にバソプレシンを投与すると、間質の線維化が進むことが分かりました。

その詳細を調べていくと、

バソプレシンの刺激によって増えてくる物質、”CCN2”という成長因子が見つかりました。
その役割を調べるために、嚢胞腎モデル動物でこの CCN2 を発現しないように遺伝子操作したところ、嚢胞の成長が抑えられるとともに線維化が少なくなりました。

さらに、このCCN2という物質は、YAP(*3)という物質により制御されていることもわかりました。
実際に、このYAPの働きを抑える verteporfin(*4)という薬剤を投与したり、YAP遺伝子を働かないようにしたりすると、その嚢胞腎モデル動物ではCCN2が少なくなり、線維化も減少、また嚢胞の成長も抑えられました。

これらの実験から、バソプレシンがYAP、CCN2を介して線維化を促進することがわかりました(図)。

 

*3 YAP:yes-associated protein、器官のサイズを制御するHippo伝達経路の主要な分子の一つ。

*4 verteporfin:「加齢黄斑変性症」という病気で光線力学療法の際の注射薬として使用されているようです。ADPKDへ応用ができるかどうかはまだわかりません。

 

図:バソプレシンーYAPーCCN2への伝達経路

 

(出典)
Dwivedi N, Tao S, Jamadar A, et al. “Epithelial Vasopressin Type-2 Receptors Regulate Myofibroblasts by a YAP-CCN2-Dependent Mechanism in Polycystic Kidney Disease.” J Am Soc Nephrol 31: 1697-1710, 2020.

 

 

*2 Tsukiyama T, …, Ema M. “Monkeys mutant for PKD1 recapitulate human autosomal dominant polycystic kidney disease.” Nat Commun. 10:5517, 2019.

 

 

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