トルバプタンのはなし(7) ~水分は足りてるの? 尿浸透圧をみる~
2022/12/08
トルバプタン(サムスカ®)を飲んでいると、のどが渇いて水分をたくさん飲むようになります。
ただ、どのくらい飲めばいいのか、水分が足りているのか、飲みすぎているのではないか、不安になっている方もいるでしょう。
これまで「のどの渇きに合わせて水分を摂ってください」といってきました。
基本的にそれでいいですが、トルバプタンがしっかりとその効果を引き出してくれているかどうか、確かめておきたいところです。
バソプレシンが働かないようにすることがその目標になります。
ここから、その指標として、次の3つを取り上げます。
■尿浸透圧
■尿中ナトリウム(排泄率)
■血中尿素窒素(BUN)
順番に説明していきますが、最初は、尿浸透圧です。
バソプレシンが働くと尿が濃くなりますので、その “尿の濃さ” を調べます。
それが “尿浸透圧” です。
病院で尿検査をしたとき、その色はどうでしょうか。
トルバプタンを飲んで病院に行くと、おそらくこのように薄い色の尿になっていると思います。
この時の尿浸透圧は、血液の浸透圧(約280mOsm/Kg/H2O)よりも低くなっています。
トルバプタンが作用してバソプレシンの働きを抑えている結果です。
ただ、朝起きた時の尿の色はどうでしょうか。
このような色になっていませんか。
この時の尿浸透圧は血液の浸透圧より高くなっています。
多くの方が、サムスカ30㎎錠®を朝1.5~3錠、夕0.5~1錠で飲んでいると思います。
なので、朝の薬を飲む時間帯が、一番トルバプタンの効果が切れる時になります。
その時に脱水状態になっていると、バソプレシンが働いて尿が濃くなります。
では、朝、脱水状態にならないためにどうすればいいか。
昼間にトルバプタンが効いて出たたくさんの尿を補うように、夕食後くらいまでに十分に水分補給をしておく(体に水分をストックする)ようにしてください。
そうしておけば、夜寝る前に無理してたくさん飲む必要はありません。
それでも、トイレに起きることもあると思いますが、その時はのども渇いていると思うので、水分補給をしてもう一度寝て下さい。
夜起きることがつらい方は、早朝尿の浸透圧を見ながら、夕分のお薬を少なくしたり、飲む時間を早めたりしてもいいと思います。
トルバプタンの効果を最大限に引き出すためには、一日中、翌朝お薬を飲むまで、バソプレシンの働きを抑えることが大事なのです。
その指標になるのが、早朝尿の浸透圧です。
まとめです。
*普段は、朝起きた時の尿の色でチェックする。
*尿検査は、受診したときの尿ではなく、早朝尿を持参して尿浸透圧をチェックしてもらうと、水分が足りているか、朝まで薬が効いているかどうかが分かります。
ご自身の生活にあった薬の飲み方、水分の摂り方をしていきましょう。
(補足)
尿浸透圧は、体内の水分量により一日の中でも大きく変動します。
ちなみに、糖尿病の指標となる血糖値は食事摂取により変動するので、空腹時血糖値を調べます。
ただ、それだけでは病状を把握するのが難しいので、1~2カ月間の血糖値の平均を推定する “ヘモグロビンA1C(HbA1C)“ という指標を用いることが多く、広く普及しています。
尿浸透圧に代わる指標になりうるのが、バソプレシンが働くことによって増える “尿中アクアポリン2(AQP2)”です。(“多発性嚢胞腎・研究のはなし(1)”参照)
私たちは、トルバプタンを飲むと尿中AQP2が少なくなり、それがトルバプタンの効果と関連する一つの指標になることを報告しました。(*1)
今は一般的に検査できるものではありませんが、尿中AQP2は日内変動があまりないので、糖尿病のHbA1Cのように「1日平均の尿の濃さ(水分を摂れているかどうか)を表す指標」として使用できるようになることを期待しています。
*1 Makabe S, Manabe S, Kataoka H, et al. “Urinary Aquaporin 2 as a Potential Indicator Predicting Tolvaptan Response in Patients With ADPKD.” Kidney Int Rep. 6: 2436 – 2444, 2021.