トルバプタンのはなし(9) ~水分は足りてるの? 尿素窒素(BUN)も指標の1つ~
2023/02/05
3つ目は、尿素窒素(BUN)についてです。
尿素窒素(BUN)も、皆さんの血液検査結果の中にある項目です。
“トルバプタンのはなし(4)” で飲み始めのクレアチニンが上昇することを書きました。
尿素窒素(BUN)は腎臓から排泄される老廃物です。
なので、トルバプタンを飲むと、クレアチンと同様、血中の尿素窒素(BUN)も上昇することが想像されます。
しかし実際には、尿素窒素(BUN)は低下します。
なぜでしょうか。
正常では、余計な “水” が体から出ていかないように、バソプレシンが尿細管で働いて “水” を体の中に戻します(これを「再吸収」といいます)。このとき、同時に “尿素” も再吸収されます。
しかし、トルバプタンはそのバソプレシンの働きをブロックし “水” の再吸収をしないようにするため、たくさんの尿が出るようになります。
それと同時に “尿素” の再吸収も少なくするために、“尿素” も尿の中にたくさん出てくることになります。
その結果、トルバプタンが効けば効くほど、体の中の “尿素” が少なくなり、血中の尿素窒素(BUN)も下がるのです。
ただ水分が十分に摂れていないと、トルバプタンの効果よりバソプレシンの作用が上回り、血中の尿素窒素(BUN)は上がってきます。
お薬を飲む前よりもBUNが下がっているようであれば、水分は足りている、
逆に上がっているようであれば、脱水傾向にあり、水分不足です。
このように、血液の尿素窒素(BUN)の値を見ることで、水分摂取が十分であるかどうか、ある程度わかります。
さらに、Naと同様に、トルバプタンの直接的な作用を反映する、“尿素窒素の排泄率(FEUN)” も一つの指標になります。(*1)
実際のeGFR、BUN、FEUNの変化を示します。(*2)
3回にわたって、「水分が足りているか?」の指標について紹介してきました。
腎臓くんは、本来からだの水分量をうまく調節してくれているので、トルバプタンのようにその働きを抑えるような薬を飲むと、からだにとって適切な水分量かどうかを判断するのがとても難しくなります。
脱水にならないようにするだけでなく、トルバプタンの効果を最大限に引き出せるように、これらの指標を含めた血液検査、尿検査をしっかり行っていくことが大事なのです。
(補足)
*1 尿中尿素窒素(UN)排泄率(Fractional Excretion Urea Nitrogen:FEUN)
尿に排泄されるクレアチニンと尿素窒素(UN)の割合をみたものです。
FEUN(%)=(尿中尿素窒素(UN)/血液尿素窒素(BUN))÷(尿Cr/血液Cr)x100
明確な基準はないものの、トルバプタン内服している場合、35%未満だと脱水傾向、35%以上であればトルバプタンの効果を引き出せていると考えられます。
ただ、腎機能や蛋白質摂取量によってFEUNの値は変わってくるので、絶対的な数値よりも経時的な変化を見ることによって、水分が摂れているかどうかを見極めていくことが大事です。
*2 Akihisa T, et al. Clin Exp Nephrol. 26;540-551, 2022.