多発性嚢胞腎のはなし(3) ~嚢胞を成長させないために~
2022/05/20
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者さんの診療をしていると、発見された時の病状(腎臓の大きさ、嚢胞のでき方、腎機能、合併症の起こり方など)がさまざまであることに気付かされます。
たとえば、親御さんは早くから透析が必要であったのに、患者さんはそれほど進行していない方がいらっしゃいます。また、その逆もあります。
嚢胞ができる時期や頻度が異なり、その結果、病気の進行も人それぞれで異なることを前回お話しました。
今回は嚢胞ができた後の“成長”の違いについて考えてみます。
一般に、病気は遺伝要因と環境要因の両方が関わっているとされています。
糖尿病は生活習慣病の代表的なもので環境要因が大きく影響することは確かですが、遺伝要因がないわけではありません。
高血圧や脳卒中は家族内発生が多いですが、塩分摂取、肥満など環境要因も大きく関わります。
一方、遺伝要因の全くないものは交通事故などです。
遺伝性の病気というと、遺伝要因だけが関わっていて、どんなに頑張っても良くならないと考えられがちです。
しかし、特にADPKDのようにゆっくりと進行する遺伝性の病気は、遺伝要因だけでなく、環境要因も大きく関わっています。
その一つが高血圧です。
ADPKDでは、35歳未満で高血圧を認めた方は進行が速いこと、若いころから血圧管理を厳密に行ったほうが進行が遅いことがわかっています。
最近の報告では、肥満も悪化要因の一つです。(詳しくはまた説明します)
また、“水分のはなし”のところで書きましたが、水分が足りないと、バソプレシンの刺激により嚢胞が大きくなります。
私の患者さんで、水分を摂る習慣があまりなかった方に、十分に水分を摂取してもらったところ、腎臓が小さくなった患者さんもいます。
ADPKDでは、前回のおはなしのように、“体細胞変異“が起こり嚢胞が発生し、さまざまな刺激(高血圧、水分摂取不足、肥満など)により、嚢胞は”成長“していきます。
“体細胞変異“が起こらないようにできればいいのですが、今のところ、その手立てがありません。
しかし、嚢胞への刺激を少しでも少なくするために、環境要因、なかでも生活習慣の中で実践できることがあります。
血圧をしっかり管理する、そのために塩分を控えること(“血圧のはなし”、“塩分のはなし”を参照ください)、太らないようにすること、水分をしっかり摂ることなど、です。
嚢胞を”成長”させないために、できることからやってみてください。
さて、お子さんがいる患者さんは、お子さんに遺伝していないか、皆さん心配されます。
いずれは検査したほうがいいと思いますが、今のところ小さい時に検査をするメリットはほとんどありません。
私は、心配されている患者さんに、お子さんの検査をするかどうかを考える前に次のようなことを提案しています。
遺伝していた場合を想定して、嚢胞の“成長”を刺激しないようにする生活習慣をお子さんに身につけてもらうことです。
まず、水分を摂るという習慣です。
バソプレシンが出ないようにすればいいので、初めは「のどが渇いたらしっかり水分を摂る」ような習慣をつけさせてください。
人間のからだはとても精密にできていて、水分が少し足りなくなっても腎臓くんたちが協力(我慢)し合って、お子さんが何事もないように過ごさせてくれています。
それでも「のどの渇き」が出てくるのは、腎臓くんたちが困っているというサインを送っているからです。
なので、のどの渇きを感じたら、こまめに水分補給をするようにさせてください。
お子さんが少し大きくなったら、「尿の色が濃かったら水分が足りない」ことを教えてあげてください。
”水分のはなし”でもお話しした第二のサインです。
さらに、高血圧にならないように塩分を控えめにする、太らないようにする(おやつはほどほどにする)などの習慣をつけさせることも大事です。
遺伝していないお子さんや配偶者さんにとっても悪い習慣ではありません。
ぜひ家族ぐるみで良い習慣を身につけてください。